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CD不況の中、なぜHMVは渋谷に新店を再度オープンさせるのか?

渋谷
“渋谷系”を生み出し、日本を代表するCDショップの1つだったHMV渋谷が、音楽好きに惜しまれつつ閉店したのが、2010年。CD不況を印象付けた出来事だったが、なんと今年2015年秋に再度渋谷に旗艦店をオープンさせることが決まった。

場所は、マルイシティ渋谷がリニューアルして開業する「渋谷modi(モディ)」内5~7Fの約550坪。HMV最大の売り場面積となり、約50万点の商品を置くという。音楽好きとしては嬉しい話だが、果たして勝算はあるのだろうか? ローソンHMVエンタテイメントの広報担当者(渡辺昌平さん)に尋ねた。

■総合提案する、新業態でのオープン

Q:CD不況と言われますが、従来の店舗と戦略を変えるのでしょうか?

A:今回オープンさせるのは「HMV&BOOKS TOKYO」というお店で「ブックス」という言葉がありますように、従来のCDとDVDを中心とした店舗とは異なる、新業態となります。書籍を中心にし、グッズ、雑貨なども扱う予定です。

Q:書籍が中心ですか! 雑貨は、どのようなものを想定されていますか?

A:商品についてはこれから決めてまいりますので、現段階ではっきりと申し上げることはできないのですが、例えば、文具やキッチングッズなどを置く可能性がございます。

Q:それは驚きました。従来のCDショップとは全く違いますね。

A:そうですね。商材の幅はかなり広いですし、イベントスペースも広くし、店内にカフェも設置予定です。

Q:イベントは多く行う予定なのでしょうか?

A:はい、イベントスペースは従来の店舗にも設けていましたが、今までよりも多く開催する予定です。従来のミニライブなどだけではなく、書籍の作家を呼んでトークショーを行ったり、グッズや雑貨と絡めたワークショップなども予定しています。

Q:なるほど、かなり多様で活性化する場となりそうですね。ターゲットはどこに設定しますか?

A:出店させていただく渋谷モディ自体のターゲットが30~40代の女性なので、同じになります。以前は音楽や映画が好きだったけれど、最近は忙しかったり、子どもが生まれたり、とエンタメから離れてしまっている方に、CD・DVDだけではなく、複合的にエンタメを提案できればと思っています。“上質な空間・新たな発見の場所”というのを店舗の特徴にしたいと考えています。

Q:それでもやはり核となるのはCDのコーナーでしょうか?

A:商材でコーナーを分けるということではなく、ある切り口に対して、書籍、CD、DVD、グッズを揃える、といった提案の仕方を考えています。

Q:それもまた今までと全く違いますね、驚きました。ローソンチケットとの連携などもあるのでしょうか?

A:はい、連携する予定です。他にもグループ会社との取り組みとしましては、ユナイテッド・シネマとの連携も考えております。

Q:売上の予定は決まっていますか?

A:まだ決まっておりません。ですが、今回は売上というよりも、“新たなチャレンジ”を行う店舗として、お客様に新たな提案をしていくということを最重要に考えております。

■スタートし始めている複合的な提案

Q:4月8日には池袋店がルミネからエソラに拡大移転オープンしたばかりです。こちらの業態は従来のCDショップでしたが、イベントスペースと書籍コーナーが広く感じました。

A:おっしゃるとおりです。また、一部で複合的な提案をしている部分もあり、例えば『渋谷系とその遺伝子』というコーナーで、CD、DVD、書籍を一緒に並べていたりします。また、ジャズ・クラシック売り場が独立したコーナーとなっております。

Q:かつてメトロポリタンプラザにあったHMV池袋のクラシック売り場は人気がありましたよね。

A:そうなんです。お客様にとても愛していただき、その後に縮小したものの、今もかつてのイメージを強く持つお客様も多くいらっしゃるので、今回その期待に応えるために独立したコーナーを設けました。また、クラシック・ジャズ・ワールドミュージック売り場入り口では「クワイエットコーナー」という展開を行っています。ここではジャンル問わず「心を深く静める、繊細で穏やかな音楽」を集めています。企画としては以前より行っており、書籍も出ておりますが、ここまで大きく展開するのは初めてになります。

Q:なるほど、従来の店舗と秋にできる渋谷店の間のような店舗なのですね。

A:そうですね。

Q:最後の質問です。渋谷の新店は、タワーレコードさんと近い立地なのが気になりましたが。

A:確かに近いですが、“競合”ということではなく、一緒に渋谷という場所や音楽シーンを盛り上げていければと考えております。

とのこと。最後に話の出た同業のタワーレコードもタワーレコードカフェをオープンさせるなど、各社様々な手を打ち、ライフスタイルと音楽を結びつける傾向が伺える。

今回の新店は本がメインということなので、音楽だけに限って語るのは違うかもしれないが、従来のCDショップというのは、良くも悪くも「みんな音楽が好きで聴くもの」という前提を多分に持っていたかもしれない。

しかし、必ずしもそうではないのだ、ということが、それが一因に過ぎなくても明らかになっている今、専門店に足を運ばせる路線とは別の道を行く、というのは1つの接触の仕方としてとても理解できる(好きな人は買い続けるわけだし。もちろん買い続けてもらうための努力も必要だが)。かといって今回の選択はバイヤーの質や全体のデザインなど、難易度も高そうだ。それだからこそ、前向きに応援したいと思う。

ともあれ、音楽は日常のあらゆる場所に存在し、なくなることはないだろう。「音楽を買う」という積極的な動きが減って、パソコンやスマホでダウンロード、更にはYouTube、ストリーミング、音楽以外という流れがあるのは事実だが、お店で気に入った雑貨を買うのと全く同じように音楽を買う、というのは確かにありだ。

100年前に活躍した“ジムノペディ”で知られるフランスの作曲家エリック・サティは「家具の音楽」という概念を生み出し、BGMやアンビエントミュージックの祖となったが、今、正に音楽は家具や雑貨のように、ごく自然に買われ、愛されるようになるのかもしれない。(執筆:大塚晋)

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