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いじめと感じる“呼び名”はもはや「あだ名」ではない 「あだ名禁止」ではなく、ルールを子どもたちと一緒に考えて

元日本テレビ解説委員で、現在は各メディアでコメンテーターを務める岸田雪子氏が、子育て周辺の話題を取り上げる新連載「岸田雪子のBloom Room(ブルームルーム)」。親子の笑顔の "つぼみ" を花開かせる小部屋です。今回は、"あだ名禁止" について考えます。

突然ですが、小学校時代、私のあだ名は「きっき」でした。岸田の「き」で「きっき」。「♪おサルのきっき~」と声をかけられたりしながら結局、高校卒業までずっと「きっき」でしたので、今でも同窓会に行けば「きっき」ですが、嫌な気持ちになったことは一度もありません。
人それぞれに思い出もあるはずの、あだ名。それを禁止する動きもあると聞き、正直、驚きました。名前の「呼び捨て」をやめて、「さん付け」を推奨する学校も増えていることは取材先の学校でもお聞きしていましたが、「禁止」まで、とは。

■確かに、「呼び名」が「いじめ」になることはある

あだ名はいじめになるのか?と考えた時に、思い出されることがありました。
福島第一原発の事故後、福島県から各地に子どもたちが避難した時のことです。避難先の学校に転入した子どもたちが、原発や放射線と結び付けるような名前で呼ばれ、各地で苦しい思いをしていたのです。いわゆる「原発避難いじめ」でした。
中には、先生がいじめに加担している学校もありました。ある先生は、避難してきた子どもの1人を「〇〇キン」と呼んでいました。その先生の言う、「ヒカキンさんが大人気だったから子どもたちにもキンをつけていた」という言い訳にも、呆れてしまったものでした。
決定的に欠落しているのが、「その呼び方をされたら、その子はどんな気持ちになるだろう?」という想像力であることは、言うまでもありません。
そしてもう1つ大切なこと、このような傷つける呼び方は、もはや「あだ名」とは言えず、法律で禁止された、いじめなのだということです。

■「禁止」ではなく、子どもたち自身に「問い」を投げかけて

改めて。いじめとは、「対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの」を言います。言った側に傷つけるつもりはなくても、言われた側の心が傷ついたのかどうかで判断されます。
そして子どもたちの日常は、いじめなのか、遊びなのか判然としないもので溢れています。そんな日常の中だからこそ、「どうしたら相手が傷つくか」を感じる心を育てることが大切なのです。
教えるのは先生だけでなく、親にも大きな責任があります。私も、息子が家で友だちのことを話す時に、名前以外で呼んでいて「おや」と思った時は、必ず「その呼び方、その子はどんな気持ちかな」と尋ねることにしています。息子は「んー」と考えて、「嫌かもしれないから、もうやめる」と言うこともあります。特に、「見た目をからかったあだ名は絶対ダメ」ということは、繰り返し伝えています。子どもは1度や2度話しても伝わらないですから、繰り返し、根気よく、が大事ですね。

名前の「呼び捨て」をやめさせたり、「さん付け」するよう呼び掛けている学校もあるようです。それぞれで工夫をされるのは良いのですが、是非そのルール作りの過程に、子どもたちも参加させて欲しいと思います。
相手にどんな呼び方をしたら、お互いに気持ちよく、仲良くなれるだろう?…そんな問いかけをすれば、子どもたちは「相手の気持ち」に思いをめぐらせるきっかけにもなるでしょう。
大人側が「禁止」や「推奨」を決めるほうが簡単です。ですが、いじめの芽をつむ試みは、そんな日常の問いかけを繰り返す中で、子どもたち自身が身に着けていくものなのだと思うのです。

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