時事

三浦さん、芦名さん、竹内さん 有名人の自死が相次ぐ今、連鎖を防ぎたい… “生き延びた人たち”を取材し続けた記者が考える、“私たちができる関わり方“

元日本テレビ解説委員で、現在は各メディアでコメンテーターを務める岸田雪子氏が、子育ての身近な悩みや課題を取り上げる新連載「岸田雪子のBloom Room」。親子の笑顔の“つぼみ”を花開かせる小部屋です。今回は、“しんどい人への声かけ”について考えます。

今週テレビやネットに溢れる竹内結子さんについての報道に触れて、悲しみに加えて、何か胸に引っかかるものがありました。

有名人の自死が公になった後には、連鎖が起きてしまわないように、報道の最後に「悩んだら○○に相談して」と、相談窓口を知らせるメディアが増えてきました。良いことなのですが、それだけでは足りない、と思うのです。

また「ひとりで抱え込むのは、よくないことです」と呼びかける人の姿を見て、しんどい人を否定しないであげてほしい、とも思います。

「死ぬな」という呼びかけもそうなのですが、悩んでいる当事者に、「○○するな」「○○して」とその人自身の行動を促すことは、酷な場合も多いと感じます。本人は、自分で行動を起こせる気力すらも、奪われていることが少なくないからです。

身近な人、家族、あるいはネットのつながりの中で、生きづらさを抱えた人に出会った時、どんな関わり方をすれば、命を守れるのでしょうか。

 

■飛び降りることをやめた少年の話


私は記者として、いじめや不登校の取材をする過程で、命を絶とうとしながらも、踏みとどまった人々に、お話を聞かせて頂いてきました。

A君もその1人で、彼は自宅マンションから飛び降りることを決意しながらも、ぎりぎりのところで生きることを選択しました。その理由を尋ねると彼は、両親の顔が頭に浮かんだこと。そして、悩みを話した時にお父さんがかけてくれた、「気づかなくてごめん」という言葉が、生きる支えになったと話してくれました。

「気づかなくてごめん」という言葉は、少年のしんどさを認め、受け入れてくれる言葉だったのだと私は思います。「死ぬ」ことに共感はできなくても、「死ぬほどつらい」という想いを受け入れ、寄り添うことは、大きな救いになるのです。

 

■私たちの誰もが、命を救うことができる

有名人の訃報に連鎖が起きてしまわないためには、本人への呼びかけ以上に、周囲の人の関わり方が大切なのではないでしょうか。

周囲の人、というのは、家族や知人だけではありません。自死を踏みとどまった人の中には、学校の先輩の言葉に救われたという人や、ツイッターのコメントに救われた、ゲームのチャットでつながった知らない誰かの言葉に救われた、という人もいます。つまり、 “周囲の人” は、私たちの誰もがなりうる。誰もが命を守ることができるのです。

生きづらさを抱えた人に出会ったら、「〇〇すればいい」とか「〇〇しては駄目」と結論を急ぐのではなく、しんどい経験を「ただ聴く」ことに集中することが大切だと私は思います。その人の辛さや悲しさも含めた、「存在そのもの」を丸ごと認めることが、命を守ることにつながると、これまで出会った “生き延びた人たち” が教えてくれたからです。

 

■子どもたちにも、「存在そのもの」を認めたい

これは子育てにも通じるものです。日本の子どもたちの幸福感が低いことは先日もニュースになりましたが、日本の子どもたちの自死の割合は、世界的に見ても多いのです。

大人は「成績」とか「運動会1等賞」とかの、見えやすい成果に目が行きがちです。私もそうです。でも、その子が生まれて、この世にいてくれるだけで素晴らしいということ、とても嬉しいということを、日常の会話の中で伝え続けて頂けたらと思います。

もし悩みを口にしたら、ただ聴いてあげてください。結論を急がずに、本人と一緒に、どうすれば辛くなくなるかを考えてあげて頂けたらと思います。

大人も子どもも、人とのつながりが絶たれ、心が苦しくなりやすい時です。普段の「やらなきゃいけない」ことのハードルを少し下げて、許しあい、認め合える関わりを、続けていけたらと思います。

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