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走っている車の車輪が、逆回転しているように見えるのはなぜ?

車の車輪や扇風機の羽根が回っているのを見ているとき、一瞬だけ逆向きに回転しているように見えた、という経験はありませんか? あれは気のせいではなく、“そのように見える錯覚”が起きているのです。

■動画で見た場合でも逆回転しているように見える

まずは、この動画を見てみましょう。

この扇風機の羽根は右回りですが、回転のスピードをゆるめると、ときどき左回りに見えます。これは、動画を撮影している間隔と羽根が1回転するスピードが原因で起こります。

上の動画は30fpsで撮影しています。「fps」とはframe per secondの略で、1秒間の動画が何枚の静止画によって作られているのかを示します。つまり動画とは、パラパラ漫画のように、静止画を連続再生したものなのです。したがって、30fpsでは、1秒間に30回、つまり30分の1秒ごとに静止画の撮影がおこなわれていると解釈できます。

次に、扇風機の回転スピードを考えます。ここでは単純化して、羽根が1枚の扇風機があると仮定して考えてみましょう。

まず、この羽根が1秒間で30回、つまり30分の1秒で右に1回転するとします。この場合、羽根が1回転する時間と、静止画を撮る時間がぴったりと一致します。すると下の図で示したように、動画では羽根が止まっている状態に見えてしまうのです。

ストロボ効果
(図1)

では扇風機のスピードを下げて、1秒間で右に29回転にしてみるとどうなるでしょうか。下の図2をご覧ください。30分の1秒後には、1回転する直前なので、扇風機の羽根が少しだけ左にずれたシーンの静止画が撮られます。そして30分の2秒時点では、さらに左にずれたところで撮られます。これを再生すると、羽根が本来の右回転とは逆の左回転するように見えるのです。

ストロボ効果2
(図2)

これが、動画を見ているときに扇風機の羽根や車輪が逆回転して見えるしくみです。このしくみは「ストロボ効果」と呼ばれています。ストロボとは、写真の撮影などに使用される一定間隔で一瞬だけフラッシュさせる機械の名前です。ストロボの点灯間隔を、動画の撮影単位であるfpsになぞらえて表現した名前です。

■肉眼で見たときに逆回転して見えるのはなぜ?

動画を見ているときに起きるストロボ効果は以上のように説明できるのですが、画面越しではなく実際に回転しているものをその場で見たときにも、逆回転して見えることがあります。これはなぜでしょうか。

ひとつは、蛍光灯やLEDなどの照明の光が、目の前の光景を静止画の連続として見せているという考え方です。実はこれらの照明器具も、ストロボと同様に1秒間に100回または120回点滅しています(照明の周波数帯で頻度が異なる)。つまり私たちは、照明のもとで見ているものはコマ送りで視認しているというわけです。この点滅の頻度と、扇風機の羽根や車輪の回転のスピードが、先述した動画のような条件と合致したときに逆回転に見えるのです。

しかし、この考え方では照明のない環境、すなわち屋外で車輪が逆回転して見えることを説明できませんね。そこでもうひとつ紹介したいのが、“そもそも私たちは連続してものを見ていない”という考え方です。

動いているものを見るとき、眼球はそれを追うように素早く動きます。眼球を動かしてピントを合わせて脳に情報を送るのは、途切れ途切れの作業です。つまり、私たちの目そのものがストロボ効果を作っているのです。この考え方によって、環境要因を無視してもストロボ効果が発生することを説明できます。ただし、眼球の動かし方などには個人差があるため、人によって同じ車輪の回転でも見え方が異なることがあります。

■錯覚は人間の感覚を理解するきっかけ

“そもそも私たちは連続してものを見ていない”という状態は、普段の生活のなかでは意識しにくいものですよね。今回紹介したような現象は、視覚情報の処理方法を研究するうえで参考にされることもあります。何気なく感じている不思議な錯覚を検証することは、人間がもつ曖昧な感覚を理解する糸口になっているのです。

参考資料
D Purves, JA Paydarfar and TJ Andrews (1996) The wagon wheel illusion in movies and reality. Proceedings of the National Academy of Sciences 93 (8): pp. 3693−3697.(http://www.pnas.org/content/93/8/3693

※情報は2015年10月16日時点のものです

 

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