漫画家の魚乃目 三太(@SantaUonome)さんによる『しあわせゴハン』シリーズ。
食べ物をテーマにさまざまな形の愛を描き、優しく温かいストーリーが多くの人の心を打っています。
今回のテーマは『お寿司』。
決してキレイとは言えない作業所で、仕事をする父親。そこに母親が慌てた表情でやってきて…。
■しあわせゴハン『お寿司』
電話は学校からのものでした。
息子はやんちゃ盛りのいじめられっ子。先生からのお叱りに頭を下げる両親には目もくれません。やがて、グレてしまい暴走族に。酒、煙草は当たり前。悪い友人とつるみ、夜になれば走りに行きます。母親に手を出すなど、ひどい非行っぷり。
それから時が経ち、老いた両親を駅の改札で待っていたのは、なんと……
すっかり社会人らしくなった息子でした。両親はその立派な姿に思わず感激。照れくさそうに2人を寿司屋に誘います。
「いらっしゃいませ!」ーー威勢のいい、大将の声が3人をお出迎え。高級な雰囲気に唖然とする両親。躊躇いながらも、女将さんに促されるまま席に。息子が頼んだビールを手に、まだ緊張している様子。
「何をお握りしましょうか!」ーー息子が注文すると、両親も恐縮しながら続きます。注文を受けた大将は、真剣な面持ちで握り始めます。初めて見る、高級な寿司を握るプロの姿に、息子も息を思わず息を飲みます。そして、出てきたのは……
いなり寿司と、玉子の握り。
息子はまぐろの寿司を食べながら、両親が喜んでいなりと玉子を食べる様子を見ています。2人が値段を気にしていることを悟った彼は、冷や汗をかきながらも大胆な注文。目を丸くして驚く両親。
「へい、お待ち!」ーー出てきたのは、美味しそうな大トロの握り! 色鮮やかで、キレイに脂ののったそれを、恐る恐る口にする2人。
美味しさはもちろん、家族が揃って食べていることが、両親の心をより一層震わせたのでしょうか。幸せを噛み締めた2人は、涙、涙…。そして、大将も思わずもらい泣き。
「おあいそで!」ーー息子は勘定へ向かいます。給料袋からお金を取り出す彼はそこか誇らしげでしたが、やはり、そう安くはない値段に少しだけ躊躇してしまいます。それを見ていた両親は背広に手をかけて…。
両親と別れ、満足そうに帰路につく息子。何気なくポケットを見てみると、そこにはなんと一万円が。
息子の気持ちこそ、2人にとって一番の親孝行。そんな両親の感情を汲んだ息子もまた、涙…。
互いが互いを思う気持ちが生んだ、魚乃目さんの優しいお話でした。