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「年収1000万円の派遣社員」の話に思う。「派遣は弱者」「派遣は悪」は正しいか?

「1000万円プレイヤーの派遣社員がいる」というウェブ記事を目にしました。

記事ではお二人が紹介されていて、それぞれ1部上場の中堅IT企業と大手通信会社で派遣社員として働いている、どちらの方もITエンジニアでした。

それぞれ自分の意志で、あえて派遣を続けており、その理由は「高い収入が得られるから」ということでした。

お二人ともリーマンショックの際には、その影響で職を失った経験があるそうですが、派遣であることを不安には思っていないそうで、

「いつ切られるか分からないのは事実だが、優秀な人材が多い職場で、緊張感をもって仕事に向きあうことができる」

「正社員は残業も断れず、副業も認められないので、もう一つの仕事に時間を振り分けることができない」

「正社員はかかわる仕事の選択権がないので、将来性がない経験や技術では、先の自分の選択肢を狭めてしまうが、派遣社員は自分で自由にキャリアを設計できる」

など、派遣であることのメリットを語っています。

最近では、人手不足に悩んでいるIT系や自動車製造の技術者では、高額の派遣社員が増えているのだそうで、年収アップを目指して、あえて正社員を辞めた人もいるのだそうです。

この話は、ごく一部の特殊な人たちのことという見方もできますが、そもそも労働者派遣法が施行され、派遣という働き方が始まった1986年ごろでは、派遣で働く多くの人は、これと同じような話をしていたと思います。“組織の都合に縛られず”、“高い報酬が得られる”ということです。あえて派遣で働きたいという人が、たくさんいた記憶があります。

派遣社員が今のように「不安定な働き方を強いられる弱者」として扱われるようになったのは、ひとえにバブル崩壊、金融危機、デフレの長期化といった景気低迷によるものだと思います。

そもそもは業務請負から派生した派遣という働き方が、景気低迷による人余りの状況から、雇用する企業側にとって、流動性のある労働力として都合よく扱われてしまった結果なのだと思います。

派遣法改正が国会審議されていますが、この改正の前提は「派遣は不安定で低賃金の雇用である」ということです。

そういう立場にいる人たちへの対処が必要なことは確かですが、この法改正が実施されると、派遣を希望している人は、例えばある年数を超えると同じ職場で働き続けることはできなくなります。

この記事で紹介されている高収入の派遣社員であれば、気に入った仕事を続けたければ、正社員になって社員並みの賃金を受け入れるか、もしくは完全な業務請負の形になるしかなく、感じていたメリットが失われることしかありません。

派遣のそもそもの始まりは、「もっと自由な働き方を」ということだったはずで、それは労使が対等な関係であれば実現可能なことです。景気動向ばかりは今後どうなるかわかりませんが、日本の労働人口は確実に減っていくので、その部分だけを見れば、働き手の発言力は高まっていくでしょう。

「派遣は弱者」「派遣は悪」というのは、私は少し決めつけが過ぎると思います。雇用に対するセーフティーネットというのは、派遣うんぬんの話ではなく、もう少し広い視野で考えるべきではないかと思います。

(ユニティ・サポート小笠原隆夫)

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