ハローキティ、マイメロディ…老若男女問わず広く知られたお馴染みのキャラクターを多数抱える“女子の夢”、サンリオ。そんな同社のキャラクターの中で、ひときわ異彩を放つのが、切り身がモチーフのキャラクター、その名も「KIRIMIちゃん.」だ。
メインキャラクターは、しゃけの切り身の「きりみちゃん」。大きな頭に小さすぎる目鼻と体…唯一無二の個性を感じるものの、そもそもなぜ「切り身」をキャラクターにしたのか?
この素朴な疑問を解消するために、サンリオへの取材を敢行。KIRIMIちゃん.のキャラクター育成、広告宣伝などを担当する笹田さんに、KIRIMIちゃん.の誕生秘話、そしてこれからKIRIMIちゃん.が目指す方向性を伺った。
株式会社サンリオ メディア部メディア課
笹田稔人さん
1992年にサンリオ入社。長らく営業に従事していたが、2013年4月にメディア部に異動。現在はKIRIMIちゃん.のキャラクター育成、広告宣伝をメインに担当する。祖父は漁師で、趣味は釣り、学生時代の夢は魚類の研究者…と、はからずも魚との縁が非常に深い。
■20代、30代の女性向けキャラクターとして、「総選挙」を勝ち抜いて誕生
「KIRIMIちゃん.」は2014年2月に商品化されたキャラクター。ご覧のとおり、見事なまでの「切り身」キャラである。
鮭しゃけの切り身である「きりみちゃん」を主人公に、さばくんやタイくん、さわらくんなどのサブキャラ、かまぼこちゃんなどの加工食品、きりみちゃんに恋するロースちゃんなど肉類まで加わり、多彩なKIRIMIワールドを展開している。
▲きりみちゃんとなかまたち
「KIRIMIちゃん.」は2013年秋、社内のデザイナー全員を対象とした公募から生まれた。2013年4月に、営業部門からキャラクターのマーケティング戦略の企画立案などを担うメディア部に異動した笹田さんは、大きなミッションを抱えることになる。
「当時は、全国のご当地ゆるキャラが急速に台頭、支持を集めていた時期です。ゆるキャラに反応している世代を調べると、20代、30代の女性が中心でした。当社のキャラクターのハローキティやマイメロディも20代、30代女性の支持が高いのですが、その世代に限ったものではなく、ティーンはもちろん、中高年にも愛される三世代キャラ。当社には、ピンポイントに20代、30代に向けたキャラがいないことに改めて気付き、その穴を埋める新キャラクターを開発するプロジェクトがスタートしたのです」
異動早々、この一大プロジェクトを率いることになったのが笹田さんなのだ。
今までダイレクトにはアプローチして来なかった世代に訴えるため、笹田さんは今までとは違う開発手法を用いることを決めた。それが、2013年秋に行った、新キャラクターを決めるための「食べキャラ総選挙」だ。
「当社には、キャラクター制作部をはじめ、ライセンス部門やセールスプロモーションを担当する部門など、各部門にさまざまな役割を持つデザイナーが100人近く在籍しています。従来では、サンリオショップでデビューする新キャラクターの開発には専門部隊のデザイナーしか関われなかったのですが、今回はその垣根を取り払い、デザイナー全員からの公募としました」
食べ物をモチーフとした“食べキャラ”に設定したのは、食べ物そのものを模ったキャラが世の中にまだ少ないこと、食べ物は誰にとっても身近であり、馴染み深いこと、そして将来的に流通や外食、食品メーカーなど企業とのコラボレーションが見込めること…などが理由だ。
各部門で挙がった新キャラクター案を部内コンペで選抜してもらい、その結果、20キャラクターが総選挙にエントリー。それらをホームページ上で一般に公開し、投票を募る方法を取った。そして、見事総選挙で1位に輝いたキャラクターは必ず商品化する、と宣言した。
▲総選挙のチラシ。個性豊かなキャラクターが集まった
■食卓に上がった鮭の塩焼きを見て「これをキャラにするのって、アリでは…?」
結果から言えば、その総選挙で1位に輝いたのが「KIRIMIちゃん.」。そして、途中まで独走ペースにあったKIRIMIちゃん.を最後に追い上げ2位につけたのが、卵をモチーフとした「ぐでたま」だ。
「総選挙に出場した20のキャラクターは、ソーセージや明太子、エノキなどモチーフがさまざまで、どれも実に個性的。しかし、KIRIMIちゃん.の斬新さ、奇抜さは群を抜いていましたね。『そもそもなぜ、切り身を…?』と、社内の誰もが思ったものです。発案したデザイナーは、当時20代半ばの若いママデザイナー。鮭好きの娘さんのために鮭の塩焼きを食卓に上げることが多く、ある日ふと『これをキャラにするって、アリなのでは…?』と思いついたそうです(笑)」
同社のデザイナーであれば誰もがチャレンジできる総選挙。普段、新キャラクター開発に関わることのできないデザイナーには絶好のチャンスだが、食べ物のキャラクターというお題に皆、悩みに悩んだようだ。「食事中に、食材を見ながら急に考え込む」デザイナーの姿が散見されたという。ちなみに「ぐでたま」も、担当デザイナーが生卵を食べようとして箸でつまんだ瞬間、その「ぐでー」とした姿からひらめいたそうだ。
■正式デビュー前にその姿が「斬新過ぎる」とTwitterで話題に。まとめサイトも登場
総選挙に出場する20キャラクターが出そろったが、2013年9月の取り引き先向け商品展示会の場で投票開始と同日に初披露された。そして、全てのキャラクターのクリアファイルから来場者に1人1枚、投票するキャラのファイルをお土産代りに持ち帰ってもらった。
KIRIMIちゃん.の勝利は、ある取引先のTwitter投稿が、大いに影響したという。
「KIRIMIちゃん.のクリアファイルをお持ちいただいた方のご家族が、それを写真に撮り、Twitterにアップしたところ、それを見た人が『斬新すぎる』とリツイート。それがさらに話題を呼んで、まとめサイトで取り挙げられるまでになったのです。話題性でKIRIMIちゃん.が大幅にリードすることになりました」
それを機に、「食べキャラ総選挙」自体も注目を集めるようになり、投票期間90日間で、予想を大幅に上回る14万票近い投票を集めるまでに。KIRIMIちゃん.はそのうち約25%の3万5000票を獲得するに至った。
■担うのは、魚食文化の伝承と啓蒙。省庁との関係性も深い稀有なキャラクター
こうして、「KIRIMIちゃん.」は2014年2月、商品化された。
2位に終わった「ぐでたま」は、本来であればひっそり姿を消す予定だったのだが、TBSの情報番組からアニメ化の要望が寄せられたことで、復活。その後、LINEスタンプでも火がつき、今では「KIRIMIちゃん.」をしのぐほどの人気を集めている。
しかし、「KIRIMIちゃん.」はそんな流れに動じはしない。その薄い体が背負っている使命は、非常に重く、大きなものだからだ。
「KIRIMI.ちゃん」に課せられているのは、魚食文化の伝承と啓蒙だ。水産庁からの声掛けにより、先日、農林水産省の「おさかなたべよう大使」に就任。水産庁が毎夏に実施している「子ども霞ヶ関見学デー」に2年連続ゲスト出演するなど、キャラクターながらその希少な存在が認められ、官公庁との深い関係を築いている。
メーカー各社からの引き合いも多い。味の素が今春、「Cook Doきょうの大皿」シリーズで初の魚メニュー用商品を発売したが、その店舗等での販促プロモーションを「KIRIMIちゃん.」が担うことになった。お好み焼きチェーンの「道とん堀」とは、今夏9月6日までの限定で「KIRIMIちゃん.食べ放題キャンペーン」を展開中で、キャンペーンコースを注文した人には鮭などの食材とボディ抜き型、顔シートがセットになった「KIRIMIちゃん.DIYキット」がプレゼントされる。自分でKIRIMIちゃん.が作れるというレアな体験ができるのだ。
環境問題にも一役買っている。環境庁によるノンフロン啓蒙イベントのキャラクターとして、KIRIMIちゃん.に白羽の矢が立った。
「食に関する企業とは幅広くコラボレーションできるとは思っていましたが、お好み焼きや環境問題にまで広がるとは想像していませんでした。魚介類に関連すればKIRIMIちゃん.の活躍余地は十分にあるわけで、改めて、無限の可能性を秘めたキャラクターだと実感しています」
つい先日、UHA味覚糖から「ぷっちょ KIRIMIちゃん.塩じゃけ味」が発売され、脂の乗った鮭を彷彿とさせる甘じょっぱい味が話題になった。もはや、魚介類の範疇までも超えようとしているKIRIMIちゃん.だが、今後はどのような方向性をイメージしているのだろうか?
「次に目指すのは、健康な食生活の啓蒙。KIRIMIちゃん.はお魚に特化していますが、これから野菜やお肉などともうまく融合して、バランスのいい食事を訴えるキャラクターになれればと思っています。この春、東京・丸の内にあるタニタ食堂とコラボして、期間限定の魚食メニューを提供し、ゴールデンウイークにはKIRIMIちゃん.来訪イベントを開催するなど、健康増進PRに一役買うことができました。このような活動を全国で展開していけたらと考えています。最終的には、世界中の皆様に食べ物のキャラクターといえばKIRIMIちゃん.と言っていただき、愛されるキャラクターになってくれたら嬉しいですね」
EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭
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