4月に女性向け動画ファッションマガジン「C CHANNEL」を立ち上げた森川亮さんと、IT業界で数々のスタートアップ企業や若手人材の発掘・育成に携わり、自身も起業されている奥田浩美さんの対談シリーズ。
前編に続き、後編は新規事業にまつわる障害や、新しいリーダーシップのカタチやコミュニケーション、新規事業に携われる人の条件などについて語っていただきました。
■新規事業に障害があったらどうする?
奥田:大手企業で新規事業や何か新しいことをやり出すときに、なぜか邪魔してくる上司っていますよね。森川さんはどう対応していたのですか?
森川:私はまず褒めて受けとめて、それで難しければその後はうまくかわすことですね。褒めるとだいたいOKになる(笑)。あとは何か言われても「あ、そうでしたね」とかわしてました。
奥田:なるほど。私の場合はやりたいことに向かって全力で走っちゃうことが多いので、相手が連いてこれなくなっちゃうことが多いですね。視界からいなくなるから、邪魔しようがない(笑)。
森川:成果を出していれば、誰も何も言えなくなりますからね。原則としては会社に貢献することが大事なんですが、上司の言うとおりにしても成功するわけじゃないし、そこはポイントですね。
奥田:能力がある人は自ら行動して成果を出しますからね。私の会社はそれぞれが成果を出さないと、お金がもらえない仕組みなんです。能力がある人は個人事業主となって、もっと能力がある人は経営者になる。
そして、たった7人でも主だったイベントが回せる力を持っています。7人全員がウィザード(魔法使い)であること。これが私流の育て方です。ウィズグループがなぜあるかと言えば、会社が相手でないと大企業と取引ができないから、器みたいな役割ですね。その結果、新経済サミットだろうが、Googleのカンファレンスだろうが仕事がとれます。
▲株式会社ウィズグループ、株式会社たからのやま代表取締役 奥田浩美さん
MacworldやWindows Wolrd、interop、Google Developer Dayをはじめとする数々のIT系大規模コンファレンスの事務局統括・コンテスト企画などを行う株式会社ウィズグループ創業者。2013年には株式会社たからのやまを設立。2014年より、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の未踏IT人材発掘・育成事業の審査委員を務め、若い世代の新たなチャレンジを支援している。著書に『人生は見切り発車でうまくいく(総合法令出版)』『会社を辞めないという選択(日経BP社)』『ワクワクすることだけ、やればいい!(PHP研究所)』がある。
森川:奥田さんの社名のウィズグループは、ウィザードから来てたんですね。なんでWithなんだろうと、ずっと思っていました。
奥田:人間を飛び越えるくらいウィザードの力があれば、普通の会社では力が発揮できなくても、うちに来れば成果が出せる。介護に7割を割いている人や、朝起きれないスーパークリエイター、超優秀だけど8時間一緒にいたらウザい営業とか(笑)。
人間は動物園に置くんじゃなくて、サファリパークのような野生に放っておくのも必要なんじゃないかと思っています。打ち合わせのときにはいるけど、それ以外は自分のペースで働くというような。
森川:仕事ができる人は、型にはまらないですよね。私がここ数年の経験で学んだのは、日本で成功する人と世界で成功する人は違うということ。日本で成功するのは根性とマニュアル、コーチの言うことを聞くとか自分のやり方を仕組化している人。でも、それではコーチの上には行けない。逆に世界で活躍している人は、今までにないことを生み出した人。だから、LINEのときは企画現場ではあまり採らなかった。多少は野生動物が増えないとアジアで戦えないんです。
■新しいリーダーシップのかたちが生まれている
奥田:「俺についてこい」というピラミッド型の仕組みを作ろうとするリーダーの下でやっていても、そのリーダー以上にはなれないんですよね。昔の軍隊や昭和の時代はそれでよかったのかもしれないけど、それでは後輩や部下が自分以上に育たない。
これからの新しいリーダーシップは、最善の方法を個人がそれぞれチャレンジしていって、リーダーはそれを後ろから追いながら判断していくタイプになるんじゃないかと。もちろん時には見捨てる判断も必要なのですが。
森川:今は軍隊もそういうやり方をしているみたいですよ。日々ゲリラ戦だし、情報は傍受されちゃうから共有もしない。現場に任されている。でも日本はいまだに戦艦ヤマトやゼロ戦スタイルで戦っているけど、私はそういうのを変えたいんです。
奥田:部下のモチベーションを上げるために、何かあったら飲みにいこうみたいな(笑)。
森川:そこに労力をかけるより、ほかにやることがあるだろうって思うんです。本質的じゃないですよね。
■事業計画はいらない。やりたいことは勝手にやる
奥田:森川さんは著書『シンブルに考える』のなかで、事業計画はいらないと書かれていましたね。社員とはその辺をどうやって意識共有しているのですか?
森川:インターネットの世界はスピードが早いですから、ビジョンを立ててもすぐ計画を変えざるを得なくなります。LINE時代はビジョンとか計画とか、そういうのを気にする人はついてこれなかった。今の社会は自分でなんとかしようと思う人でないと、成果が出ない。だから計画を達成することにこだわるよりも、現場がいいものを作れる環境を作るほうがいいと考えたのです。
▲C Channel株式会社 代表取締役社長 森川亮さん
1967年生まれ。筑波大学卒業後、日本テレビ放送網に入社。コンピュータシステム部門に配属され、多数の新規事業立ち上げに携わる。2000年にソニー入社。ブロードバンド事業を展開するジョイントベンチャーを成功に導く。2003年にハンゲーム・ジャパン株式会社(現LINE株式会社)入社。2007年に代表取締役社長に就任。2015年3月に代表取締役社長を退任し、顧問に就任。2015年4月、動画メディアを運営するC Channel株式会社を設立。初の著書となる『シンプルに考える』が5月に出版された。
奥田:「これをやりたいんです」という提案にはどういう形で判断しているのですか?
森川:私の役目は出してきたプランをいろいろな角度から判断し、絞り込む役割なんですが、成功するのは勝手に作っちゃう人ですね。目の前で人を集めるサービスを作ってきたらNOと言いにくいですし。お金があろうがなかろうがあきらめてたらそこまで。結局は情熱がないといいサービスは作れません。上司にダメだと言われてからが勝負ですよ(笑)。私自身も日テレにいたときは社内プロバイダを作ってましたが、会社の3分の1くらいをユーザーにしたら、誰も怒りませんでした。
■コミュニケーションは楽できない
奥田:上司にダメだと言われて、上司を説得するような対策を考えてるのもダメですね。向き合うべきはサービスなんだから。私なら目の前に敵がいたら、ぐるっと抱きしめて前に進みます。
森川:敵を作らないことは大事ですね。優秀な人ほどケンカはしません。
奥田:上司だろうがクライアントだろうが、自分の意見に対して違和感を持つ人には、時間をかけて説得します。それはもうニコニコの笑顔で(笑)。相手がダメ出しした部分を「たしかに●●さんがおっしゃることは正しいですね」と全部口にして肯定し、「立場的にそう判断するのは仕方ないと思いますが…」と、企画の背景から説明し直す。相手の立場を理解していることを伝え、褒め称えながら解きほぐすんです。
森川:相手が理解できないとイエスと言われないですものね。NOといわれるのは共感や感受性の部分が大きいから。
奥田:コミュニケーションの部分は密にやっています。そこに時間をかける分、ほかにスピードをかける。障害があったら、抱えて説得しながら走っちゃいますね。
森川:コミュニケーションは楽できないですよね。私はあきらかにダメそうな人や、やぶへびになりそうな人にはなるべく近づかないけど(笑)。
奥田:でも、やるだけやってダメだったら、その達成感できっぱり切り捨てます。人間同士、9割はもともとわかり合えないと思っているので(笑)。
■未来は不確実だから、その不安を楽しもう
奥田:森川さんは著書で、未来は不確実だから可能性は無限大にある、「不安を楽しむ」べきだと書かれていますが、私にはこれが一番ささりました。そう思えるのは適性や、経験ないとなかなか難しいと思うのですが、森川さんはどういう背景からそう考えるようになったのですか?
森川:私は前職の前の社長が言った言葉に影響を受けました。結果が出るかわからない事業の判断をするときに、みんながリスクがあるからと反対したんです。でも社長は「ダメだったら変えればいい。お客さんが一番大事なんだから、そこに集中するべき」と言ったんです。地位とか名誉が人を幸せにするとどこかで思っていたんですが、それからずいぶん変わりました。
採用するときもポジションとか経験では採らず、やりたいことを熱意を持って話す人ばかり集めてました。「何したらいいですか?」ではなく、自分から動き出すような人。何もない人から引き出すというパワーを割くことはしませんでしたね。
料理と同じで食べたいのが決まってない人は店に入れない。その日の夕飯を考えて決めることからリーダーシップなんです。何でもいいと繰り返している人は、いつまでたっても前には進めない。何でも自分で決めて進むべきだと思います。
──お二人の対談は、地方展開や女性が活躍する成功モデルの話など、多岐に渡りましたが今回はこの辺で。奥田浩美さんが、次世代リーダーと対談するシリーズは今後も続きますので、お楽しみに!
▼前編はこちら
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< 取材・文:馬場美由紀 撮影:平山諭>
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